映画【東京ゴッドファーザーズ】あらすじとネタバレ・感想

Amazon|東京ゴッドファーザーズ[DVD]より引用

今敏監督の長編アニメ映画、『東京ゴッドファーザーズ』を観たので、あらすじ(ネタバレ含む)と感想を書いていきます。あらすじはネタバレなしの部分とありの部分とに分けて書いているので、まだ観ていない方は注意して読んでください。

ホームレスのおっさんとおかまのおっさん、そして家出少女の3人が、偶然拾った一人の捨て子を巡って繰り広げるドタバタ劇がなんとも痛快な作品です。最後にはみんながそれぞれの幸せをつかむ、そんな東京の寒い冬にほっと心が温まる、数々の受賞にも裏打ちされたクリスマス映画の名作です。

主な登場人物

ギン(CV:江守徹):自称元競輪選手のホームレスおっさん。バツイチだが娘がいる。
ハナ(CV:梅垣義明):オカマホームレス
ミユキ(CV:岡本綾):父との不仲から家出したホームレス少女
キヨコ:3人に拾われた赤ん坊

あらすじ(ネタバレなし)

クリスマスの東京、ゴミ捨て場を物色していたホームレス団体のギン、ハナ、ミユキは、そこで捨てられた赤ん坊を発見する。

ギンとミユキは、その赤ん坊を警察へ届けるように言うが、母親になることを夢見ていたオカマのハナはどうしてもその赤ん坊を離したがらない。仕方がなく一晩だけのつもりで公園の自作の家に連れて帰ることに。ハナは、「この子は聖なる夜に神様が下さったプレゼント」と思い込んで、赤ん坊をキヨコと名付ける。結局キヨコの親を自分たちで探したいと言い出したハナに2人も付いていくことになる。

親探しの最初の手掛かりは、赤ん坊が入れられていたカゴの中にあったコインロッカーの鍵である。コインロッカーを開けてみると、中には両親と思しき男女が映った写真とスナックの名刺が入ったカバンが見つかったのだった。

そして3人とキヨコは、まずそのスナックを見つけるべく街を歩き始めた。

あらすじ(ネタバレあり)

※以下ネタバレあります。本作をまだ観ていない方は注意して下さい。

スナックを探している道中に、車に挟まって立ち往生していたヤクザっぽい中年男性を助けた一行。なんとその男性は探していたスナックの経営者だった。しかし、その写真の男女については知らないと言う。娘の結婚式に向かっている途中だった男性に連れられて一行も結婚式会場へ同行する流れとなり、3人は久しぶりの御馳走にかぶりついていた。

中年男性が新郎にその写真の男女のことを聞いていると、それを見たギンの表情が一変する。なんとその新郎は、自分がホームレス生活を余儀なくされた元凶の借金取り立て屋だったのだ。思わず新郎に殴りかかるギンをハナが制止していると、突然会場に銃声が鳴り響いた。なんと会場のウエイトレスが実は外国人男性で、彼がヤクザ男に発砲し、彼を庇った新郎が撃たれたのだ。犯人はキヨコを抱いたままのミユキを人質に取ってタクシーで現場から逃走する。

ミユキが連れられて来たのはアパートの一室で、そこには彼の外国人の妻と子供がいた。一方ミユキとキヨコを探していたギンとハナだったが、ギンは捜索を諦めてしまう。これに怒ったハナは一人でミユキ達を探しに走りだした。たまたま犯人とミユキ達を乗せたタクシーに行き会ったハナは、キヨコの泣き声を頼りにミユキとキヨコを見つけだした。その頃ギンは、道で倒れていた白髪白鬚のおじいさんホームレスを助けた後、血気盛んな若者数名から暴行を受けて行き倒れてしまう。

ミユキとハナは、ハナのかつての職場であるオカマバーに助けを求めて駆け込んだ。するとそこにはケガを負ったギンの姿が。彼はたまたま通りすがったオカマに助けられて、彼女(彼)が働くここへ運ばれていたのだった。無事に再開する一行。

バーを去った後、ハナが血を吐き、急遽彼女(彼)を病院へ連れて行くことに。そこにはなんとギンの娘が働いていた。久しぶりの再会を果たした2人を残して、病院を出てきたハナとミユキとキヨコ。自力での捜索に限界を感じ、警察へキヨコを連れて行こうとしたその時、キヨコの母だと言う女性に遭遇。赤ん坊を引き渡してついに事件は解決。かに見えたが、ギンはその時病院の待合室で、実はキヨコは病院から盗まれた赤ん坊で現在捜索されているというニュースを見る。ハナ達が赤ん坊を引き渡した女性は、病院からキヨコをさらって逃走していたのだった。急いでハナ達に合流したギンは事情を説明し、先ほどの女性を必死に探し始める。彼らに見つかった女性は赤ん坊を連れたまま逃走を図り、盗んだトラックで走り出す。行先も分からぬまま、暗い夜の帳の中へ。

激しい逃走劇の後、ビルの屋上まで逃げた女性は赤ん坊と飛び降り自殺をしようとするがミユキがこれを制止。しかし結局赤ん坊が手から滑り落ちてしまう。それを助けようと飛び降りたハナは、建物の垂れ幕につかまって無事に地面に着地した。

本当の両親の元へ帰った赤ん坊。本当の両親は、助けてくれたホームレス3人に赤ん坊の名付け親になってほしいと言う。それを聞き入れて両親と赤ん坊を、ギンたちがいる病室へ連れてきた警察官が、なんとミユキの父親だった。

小ネタ

有名な小ネタとして、ギンが若者たちから暴行されるシーン、背景の明かりが、ギンの残り体力を表すかのように点いたり消えたりしている、というものがあります。

また、作中のあちこちで、ビルや建物が人の顔のように描かれ、ドタバタ劇を繰り広げる登場人物を見ているという構図があります。今敏監督が人間を見守る八百万の神様をイメージしてこのような構図を盛り込んだとのこと。

感想

今敏監督と言えば、『パプリカ』や『千年女優』など、非現実と現実が溶け混じった世界観を絶妙に描くことで有名です。今回の作品は、どちらかと言うと、というか舞台は完全にリアルな東京の街。夢が暴走したり過去現在が交錯したりするような露骨な非現実世界の描写はありません。そのためもあって、今敏監督としてはちょっと異色の老若男女みんなが楽しめる映画となっています。

しかし、よくよく見てみると、この作品には宗教感に基づく神々の存在が散りばめられており、それが起こしていく奇跡という点で非現実が描かれています。

まず、物語のスタートはクリスマス。生誕劇のあと教会で牧師さんの話を聞いて炊き出しをもらう場面から始まります。これは露骨にキリスト教を示しています。その後拾った赤ん坊。眉間にほくろがあるのですが、これがどうしても仏教の仏様や仏像の眉間にあるポチ(白毫びゃくごうと呼ばれるものです)に見えてしまいます。そして街中ではあちこちで鳥居や神社が描かれていて日本の神道を表しています。そうなると、冬とは言え、肌の露出をかなり抑えたミユキの姿も、ヒジャブを纏うイスラム教徒に見えてしまう。このように世界に溢れる宗教や神様像をふんだんに取り込んでストーリーが展開しています。既述のように、東京の街が顔を持って登場人物を眺める演出も、監督自身が神様をイメージしたと述べています。

また、途中でハナが語る『泣いた赤鬼』という実在の昔話に表徴されるように、昔話も時折姿を隠しています。思えば、車に挟まれて困っていたヤクザ男は、浦島太郎に助けられた亀のメタファーのように思えますし…。

昔話と神々の結びつきは密接なもので、鬼にしろ竜宮城にしろ「超常的な存在=神」としてよく物語に出てきています。現在の我々が考える「神様」よりもっと身近な、言い換えれば精霊的な存在と言う方が分かりよいかもしれません。昔話では現実世界から「超常的な世界や物語展開」へ架け橋となるのが「人助け」であることがほとんどです。紋切型のこのスイッチを使って、この「東京ゴッドファーザーズ」でもギンたちが不思議な奇跡を次々と目の当たりにしていきます。

探しているスナックの経営者に都合よく出会ったり、ビルから赤ん坊を助けて飛び降りたハナが垂れ幕につかまって地面に着地したり、実際奇跡的な展開ありきでストーリーは進んでいきます。このごりごりのご都合主義を違和感のないレベルにまで砕いているのが、天使になぞられる赤ん坊「キヨコ」の存在です。騒動の渦中にあるキヨコが、関わる人間に実は幸福を振りまいているというのが本作の基本構造になります。そしてそれが、ホームレス3人組やその他の登場人物が生きる希望を見出すという本作の重要なテーマにも直結しています。このように本作は、ご都合主義展開のパターンを意図的にありったけ盛り込んで、逆に一つのストーリ―にしているというのが大きな特徴です。ここにツッコミを入れて内容が楽しめないような方はこの映画は見ない方がいいです。

途中で出てきて最後のお願いをした後に亡くなってしまう酒飲みの白髪白鬚のおじいさんホームレスは、監督自らデザインしたキャラクターのようですが、彼も古くからよくある神様のイメージを元に制作されました。確かに藤子・F・不二雄の描く神様などはほとんどこの姿ですね。少々罰当たりな気もしますが、神様が現代社会から切り離されつつあるというメッセージなのでしょうか。今敏監督自身は、無神論でも一神教徒でもなく自身は「汎神論」だと述べています。つまり、世界の自然的な部分にはすべからく神が宿るという考え方です。本作では人工物にも神様が投影されていますが、その思想を反映した世界観の東京が舞台となっていますね。

個人的には、この設定を引き立てているのが、作画のずば抜けたリアリティだと思います。東京の街はアニメの域を逸脱しそうなくらいリアルで、序盤で映った街並みを観て写真かと思ったくらいでした(実際景色の細部に写真を張り付けるなどの手法がとられているようです)。事実、この設定で街の描写があやふやだと中途半端なファンタジーとして受け取られるかもしれません。今敏監督の描く舞台としての街が非常にリアルだからこそ成り立つ設定なのかもしれません。

この作品には、人工的な大都会東京の中に神様像が散りばめられています。その中で人を助けて助けられてどんどん奇跡を起こしていくギン・ハナ・ミユキ。これは言わば、現代版の昔話とでも言うべき作品だと思います。言葉的には矛盾していますが、構造的には、ですね。本当に面白い作品だと思います。

長くなりましたが、総合評価は85点(100満点)です。おススメです。

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