映画の基本情報
■公開年:1982年
■監督:ブライアン・デ・パルマ
■主演:ジョン・トラボルタ、ナンシー・アレン
■制作国:アメリカ
■上映時間:108分
ジョン・トラボルタが主演を務めたサスペンス映画、『ミッドナイトクロス(原題:Blow out)』を観たので、あらすじ(ネタバレ含む)と感想を書いていきます。あらすじはネタバレなしの部分とありの部分とに分けて書いているので、まだ観ていない方は注意して読んでください。
クエンティン・タランティーノ監督が絶賛したことから、コアなファンが多いこの作品。あまりに悲痛なラストシーンも有名で、よく取り沙汰されるところです。今となっては作品の古さが目立ちますが、それも魅力の一つ。政界がらみの陰謀や、徐々に忍び寄る殺し屋の影など、スリリングな展開に目が離せないサスペンス映画です。
主要動画配信サービスにないようなので参考までに。
主な登場人物
ジャック・テリー(ジョン・トラボルタ):元刑事で、現在はB級映画の音響効果担当。
サリー(ナンシー・アレン):化粧品の販売員だが他にも秘密のお仕事を…。
バーク(ジョン・リスゴー):腕の立つ殺し屋。
カープ:写真家。事件現場を撮影していた。
フランク・ドナヒュー:TVレポーター。元俳優で人気も高い。
あらすじ(ネタバレなし)
女学生の寮に忍び込んだ殺人鬼が、シャワールームの女性に近づいていく。
彼に気付いて悲鳴を上げるシャワー中の女性…。
「音響がいまいちだな」と映画監督。シャワー中に襲われる女性の叫び声にも不満があるようだ。このB級映画の音響効果担当のジャック・テリーは、新たな音響素材を録音するため、夜の川辺にやってきた。風の音を録音していたそのとき、川沿いの道を一台の車が走ってきたかと思うと、破裂音と共に突如コントロールを失って川へ転落してしまう。その時彼は、確かに破裂音の中に銃声を聞いていたのだった。急いで川へ飛び込み、何とか車内にいた女性を助け出したジャック。しかし、もう一人乗っていた運転手の男性は助けることができなかった。
病院へ搬送されたジャックは、事故で無くなった男性が、次期大統領候補の有力知事だったと知らされる。さらにジャックは、そこにやってきた知事の側近から「車には女性など乗っていなかった。この事故のことは他言するな」と脅迫される。次期大統領候補で家庭もある知事が、死ぬ直前にコールガール(いわゆるデリヘル)と車に乗っていたというスキャンダラスな事実を隠すためだった。
その夜、すぐ退院することになったサリーと名乗る女性を家に送ろうと車を出したジャックだったが、彼女はモーテルへ行くと言う。寝入ってしまったサリーをモーテルの部屋へ連れて行った後、彼は自身が録音した音源を繰り返し聞き、銃声の音を何度も確認するのだった。翌朝、サリーはジャックに電話番号だけを残して去っていった。
あらすじ(ネタバレあり)
※以下ネタバレあります。本作をまだ観ていない方は注意して下さい。
美人サリーのことが気になっていたジャックは、もらった電話番号からサリーと再会した。店で一杯ひっかけながら、ジャックは自身の過去を打ち明ける。彼は前職の刑事の時に、自分の作戦の失敗で仲間を死なせてしまったトラウマを抱えており、そのためにも今回の事故の真実は絶対に暴きたいと語る。サリーに協力するよう説得し、彼女は説得に応じた。
その後、たまたま事故の夜に現場にいて、事故の瞬間を映像撮影したという写真家のカープが、メディアにその写真を提供したことで騒ぎになっていた。制作中の映画の悲鳴担当の女性をオーディションし直したい監督も無視して、すぐ雑誌を買いに行ってその写真を繋ぎ、動画に編集したジャックは、その映像に自分の録音音源を合わせて証拠を作る。自身も以前は警官だったため、ジャックは知り合いの刑事へその証拠を持ち込むが、証拠の映像と音源は全て何者かに消去されていた。
カープから直接撮影データをもらおうとカープの事務所にやってきたジャックは、そこで、サリーとカープが裏で組んで浮気ねつ造の写真を撮って稼いでいた事実を知る。
その後、TVレポーターのドナヒューがジャックの元を訪ね、事故が知事暗殺事件だった説を支持していると言い、テレビでフィルムを流して番組にも出演してくれと言う。彼に協力しようと決めたジャックだったが、全てを盗聴していた殺し屋バークが細工し、ドナヒューとジャックの電話回線が切られてしまう。実は、バークが知事暗殺の黒幕であり、暗殺に気付いたジャックとサリーを抹殺するつもりだった。バークがドナヒューのフリをしてサリーに電話を掛けて二人で会うように持ち掛け、何も知らず了解したサリーはジャックの元へフィルムを取りにきた。それを見て、ドナヒューが自分をのけ者にしていると勘違いしたジャックは誰も信じられなくなり、サリー同意のもと彼女に盗聴器を仕掛けてドナヒューに化けたバークとの面会を見守ることにした。
駅で合流したサリーとバーク。彼をドナヒューだと思っている彼女は、彼と共に地下鉄に乗って移動を始めてしまう。盗聴していたジャックは、その怪しい動きで、彼が偽物のドナヒューだと気づいて彼らを追いかけ始める。しかし車で彼らの乗った地下鉄が向かう先へ急行していた彼は事故を起こして気を失ってしまった。
その日は、「自由の日」を記念した大規模なイベントが行われており、フィナーレには花火が打ち上げられた。地下鉄から花火の見える広場へ出てきたサリーとバーク。バークはサリーから渡されたフィルムを川に投げ捨てると、イベントの観衆の合間を縫ってサリーを近くの高台に連行し、そこで殺そうとし始めた。
すっかり日も沈み、救急車の中でようやく目が覚めたジャックも盗聴器の音を頼りに広場へダッシュし、大声で助けを求めるサリーを何とか発見。急いで階段を上って凶器を振り下ろすバークの腕をつかみ、その凶器でバークを刺して殺した。しかし、その時すでにサリーは息絶えていた。彼女を抱きかかえて悲嘆にくれるジャック。
事件後、バークは被害者女性の最期の抵抗によって死んだ変態殺人鬼としてニュースに取り上げられていた。ジャックは、彼女に仕込んでいた盗聴器に録音されていた彼女の悲鳴を、冒頭に出てくる映画の叫び声の音源として使うのだった。「いい悲鳴だ!」と何も知らない監督は大満足、ジャックは耳をふさいでしまうのだった。
感想
クエンティン・タランティーノ監督が個人的映画史のベスト作品の一つと言ったことで有名ですが、映画の専門知識がない僕にはタランティーノ監督が言ったからファンがついてるんじゃないかと思ってしまいました。知識なしで観ればツッコミどころ満載のただのサスペンス映画という感想です。デ・パルマ監督がアルフレッド・ヒッチコックのファンとして有名で、彼の撮影技法や表現方法を受け継いでいるため、本作をしっかり楽しむにはヒッチコック作品の知識が不可欠です。ヒッチコック作品をきちんとチェックしていない僕がレビューすること自体間違っているのかもしれませんが、映画初心者目線のレビューとして読んでください。
とはいえ、おねんねしてた主人公の助けが間に合わずにヒロインが死んでしまうタイプのバッドエンドに加え、ヒロインの最期の叫び声を映画の音源に使うラストシーンに消化不良の方も実際かなりいると思います。僕もジャックの熱い熱い制作意欲(そんな描写はないけど)にぽかん。オーディションをするという監督を無視し続けたことに対する、また自分が救えなかった彼女への罪滅ぼしのつもりだったのでしょうか…。正直サイコパス的展開に見えちゃいます。「見事な伏線回収と切ないラストだ」という高評価はめちゃめちゃ多いですが、いかんせん納得できない素人。
序盤で前面に押し出されていた政治的陰謀の雰囲気はいつしか跡形もなく消え失せ、サリーに恋するジャックが一人事件の真相のため戦うというテイストに落ち着いています。「事件の裏にある巨大な悪が~」みたいな骨太のサスペンスを期待するとちょっとコレジャナイ感に陥るかも。それでもドキドキハラハラの展開をすごく楽しんで観ていました。駅でサリーの危険を察知したジャックが地下鉄を追いかけて車で暴走するシーンまでは。いや、パレードに突っこんだジャックがそのままお店に突っこんで失神するまでは。
なんで目が覚めたら夜なんや!!
おとなしく次の地下鉄に乗って後を追いかけてたら車で行くより数時間早く到着できたのでは。というツッコミを入れずにはいられませんでした。そこでスリリングな展開に浸ってた気分が一気に霧散してしまいましたね。そしてその後、サリーの死にも感情移入できず、サリーの「生」叫び声を映画音響に使う彼に言いようのない気味悪さを覚えて映画が終わってしまった。なんでこれがオールタイム・ベストの一作なんだ(小声)。監督の脚本・構成・技法を評価できる評論家や映画通の方には評価が高く、僕のような一般観客からは理解されにくい作品なのでしょうか。僕もいつの日か、この映画を「素晴らしい!さすがデ・パルマだ!」なんて言うようになる日が来るのでしょうか。
散々書きましたが、嫌いな作品というわけではありません。ミケランジェロ・アントニオーニの『欲望(原題:Blow Up)』から着想を得たと言われる、録音した「音」が物語の鍵になっているという設定は面白かったし、アナログ機器を駆使して奮闘する若きジョン・トラボルタはやはり魅力的でかっこいいし、画面いっぱいの花火をバックに死んだサリーを抱えて悲嘆にくれるシーンは息をのむほど美しかったです。他の場面でピンと来なかったデ・パルマ監督の手法が僕にはここでドハマりしました。このシーンは胸に残る名シーンだと思います(そこまでの経緯は無視して)。
監督が技法にこだわってストーリーが少し間抜けているという印象のこの映画。多少のストーリー上の謎が気になりすぎず、ヒッチコックの系譜に連なる技法により表現される名場面を味わうことのできる方にはおススメです。
ジャックの自爆失神につまずいた僕は、総合評価60点(100点満点)です。
コメント