映画【プリデスティネーション】あらすじとネタバレ・感想

プリデスティネーション-作品-Yahoo!映画より

映画の基本情報

■公開年:2014年
■監督:マイケル・スピエリッグ、ピーター・スピエリッグ

■主演:イーサン・ホーク、サラ・スヌーク
■制作国:オーストラリア
■上映時間:97分

タイムトラベルを主題としたSF映画、『プリデスティネーション』を観たので、あらすじ(ネタバレ含む)と感想を書いていきます。あらすじはネタバレなしの部分とありの部分とに分けて書いているので、まだ観ていない方は注意して読んでください。

どんでん返しがすごい!とネットでも高評価だった『プリデスティネーション』。確かにかなり面白い設定の映画でした。個人的にドンピシャで好きなストーリー展開で、巷で高評価なのも納得の面白さでした。多少ストーリーの難解さはありますが、複雑に組み上げられた設定とどんでん返しが好きな方はきっと気に入る作品です。

主な登場人物

■ジョン(サラ・スヌーク):いろいろと訳ありな男
■バーテンダー(イーサン・ホーク):バーテンダー
■ロバートソン:政府の航時局に勤める人物

あらすじ(ネタバレなし)

1970年3月、一人の男が爆弾を解体していたが間に合わず、大規模な爆発は防いだものの、自身が顔に大火傷を負ってしまう。そこへ現れたもう一人の謎の男が、近くに落ちていたヴァイオリンケース型のタイムトラベル装置を手渡してくれ、火傷の男はそれを使って未来へ飛んだ。未来へ戻って治療を受けた彼は、皮膚の移植によって全く別人の顔になった。彼は、連続爆弾事件の犯人である「フィズル・ボマー」を追いかける時空警察であり、1975年にニューヨークで彼が起こす、1万人以上が犠牲となる大規模な爆弾テロを阻止する任務に従事していた。治療を終えた男は、最後の任務を受けてまた過去へとタイムスリップする。

場面変わって1970年のニューヨーク。フィズル・ボマーの相次ぐ爆破事件に街は混乱の相を呈していた。ある晩、とあるバーに一人の男が現れ、酒をあおりながらバーテンダーに自分の過去を話し始めた。ジョンと名乗る彼が語った内容は、実に奇想天外で壮絶なものだった。

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あらすじ(ネタバレあり)

※以下ネタバレあります。本作をまだ観ていない方は注意して下さい。

ジョンは、実は女性としてこの世に生まれていた。出産後間もなく孤児院に捨てられ、両親を知らずに育った。孤児院でジェーンと名付けられた彼女は、腕っぷしが強く、数理系の天才でもあった。半面、思春期にも性的な欲望が芽生えないなど周囲との違いを認識するようになり、自分の外見にも否定的で、内向的な女性へと成長していく。政府のロバートソンという男性からスカウトされた”慰安宇宙飛行士”の仕事も、知的・体力試験には好成績だったものの、身体の精密検査の結果、理由も明かされないまま不適合とされてしまった。

落ち込んでいたジェーンだったが、そんな中、一人の男性との出会いがあった。雨の中走っていてジェーンは男性にぶつかってしまい、そこから仲良くなっていったのだ。二人はすぐ親密になり、肉体関係を持つようになっていったが、ある晩、その男は突然いなくなってしまう。彼の子供を身ごもたジェーンは、シングルマザーとしてその子供を育てていく決意をする。しかし、帝王切開での出産後、ジェーンは医者から衝撃の事実を告げられる。子供は無事に生まれたが、彼女の女性器官が出産の際のダメージで機能不全となり摘出されたこと。さらに、ジェーンが男女両方の器官を持つ「両性具有」であり、男性器の方を手術で機能するようにしたことが告げられる。男性の「ジョン」として生きていくことを決めたジェーン。しかし、ほどなくして、何者かが赤子のジェーンを病院から盗んでしまう。自分の生きる希望だった娘をさらわれて絶望するジョン。数回の手術の末男性になったジョンは、自分を破滅させた男を強く憎みながら、ライターの仕事をして生きている。以上が、ジョンがバーテンダーに語った内容だった。

過去に恋した男性を殺したい程憎んでいる、と言うジョンに、男性を差し出そうと持ち掛けるバーテンダー。突然の提案に訳が分からないジョンだったが、御咎めなしで殺していいと言うバーテンダーに言われるままに地下室へ付いていき、そこで実はバーテンダーが時空警察のエージェントであることを知らされた。バーテンダーは、ヴァイオリン型タイムスリップ装置でジョンを過去に連れて行った。男性を差し出す代わりに自分の仕事を引き継いでくれというバーテンダーの提案を承諾し、ジョンは男性を射殺すべく拳銃を携えて、女性だった自分が男性と初めて会った場所へ向かう。

しかし、男を探しているそのジョンに、過去の自分ジェーンがぶつかる。なんと、自分が恋し、子供を身ごもり、捨てられて殺したい程憎んだ男性とは、男になったジョンだったのだ。真実に気が付きながらも、彼は過去の自分に惹かれてしまう。

ジョンとジェーンの出会いを見届けた後、バーテンダーはフィズル・ボマーを追いかけて1970年にタイムスリップをして彼と戦闘を繰り広げるが、度重なるジャンプによる身体への負担もあり、一瞬のスキをつかれてバーテンダーは敗北。命を取られることはなかったがフィズル・ボマーにまた逃げられてしまう。
立ち上がり、フィズル・ボマーが爆弾をしかけた場所へ向かうバーテンダー。そこには爆弾処理が間に合わず、顔が火に覆われたジョンの姿があった。冒頭で登場したシーンである。バーテンダーは苦しむ彼にヴァイオリンケース型装置を手渡し、ジョンは急いで未来へと帰っていった。そしてジョンは皮膚の移植によって別人の顔になる。

その後、バーテンダーは1963年に飛び、病院から生まれたばかりのジェーンの子供を盗み、さらに1945年に飛んでジェーンが育った孤児院に預けた。つまり、ジェーンが産んだジョンとの間の子供はジェーンであり、後のジョンになるのだ。タイムループの輪を完成させたバーテンダーは、ジェーンと過ごしているジョンを呼びに1963年にタイムスリップをし、ジョンを1985年の航時局の本部へ連れてきた。

ロバートソンは、引退を意味する最後のジャンプを控えているバーテンダーにフィズル・ボマーの新たな手掛かりを手渡した。バーテンダーは装置を使い、大規模爆破事件の少し前の1975年1月7日のニューヨークに飛んだ。そこで装置の機能を停止にして時空警察を引退するはずだったが、装置の機能は停止せず、「Error」が表示される。さらにロバートソンから渡された手掛かりには、「コインランドリーにフィズル・ボマーが現れる」との情報が。

コインランドリーに向かったバーテンダーは、再度フィズル・ボマーと対峙する。しかし、フィズル・ボマーは、なんと年を重ねたバーテンダーだった。「時空警察として任務を遂行していた時よりも俺は多くの命を救っている」というフィズル・ボマーこと年老いたバーテンダー。彼は、自分の爆破事件のおかげで救われた命がたくさんあると新聞の切り抜きを見せて説明する。「明日の計画が気にならないか?」と共謀を持ち掛けるフィズル・ボマーを「そんなことはしない。俺はお前にはならない。」と射殺したバーテンダー。家に戻り、新たな人生を歩み出すであろうバーテンダーの体には、乳房の切除と帝王切開の手術跡が残っていた。バーテンダーは、ジョンの大火傷後の姿だったのだ。装置を見つめ、過去の自分が恋しいとつぶやくバーテンダー。

時系列まとめ

映画のストーリー順ではピンと来ない部分もあるので、時系列順にジョンことジェーン、ことバーテンダー、ことフィズル・ボマーの人生をまとめておきます。

1945年孤児院に捨てられた女の子がジェーンと名付けられ引き取られる。
成長した子供ジェーンはケンカに強く勉強もできるように。
宇宙慰安婦の試験に、身体の精密検査結果のため不合格となる。
1963年男性と恋に落ちるも男性は失踪。
ロバートソンから航時局のスカウトを受けるも妊娠により不適合に。
帝王切開で子供を出産するが子宮を摘出。両性具有であると発覚。
男性になりジョンとして生きることを決心。子供がさらわれ絶望。
苦難の元となる男を強く憎むようになる。
1970年たまたま入ったバーでバーテンダーに半生を語る。
自分を破滅させた男を殺すため、バーテンダーと1963年にタイムスリップ。
そこで自分が過去の自分のジェーンと恋に落ちる。
バーテンダーから時空警察の仕事を引き継ぐ。
仕事ではかなりの成果を挙げ、功績を残す。
フィズル・ボマーの事件を扱うようになる。
1970年、任務に失敗して爆破は防いだが顔を大火傷し、
手術によって別人、バーテンダーの姿になる。
最後の任務「仕事の引継ぎ」のために1970年に飛び、
バーテンダーとしてジョンを待つ。
ジョンを連れて1963年に飛び、ジョンとジェーンを引き合わせた後、
1970年に飛んでフィズル・ボマーを阻止しようとするも失敗。
大火傷を負ったジョンを助ける。
1963年に飛び、ジェーンの子供を誘拐して1945年の孤児院へ捨てる。
1963年にまた戻ってジョンを時空警察にするべく未来へ飛ぶ。
任務を完遂したので引退して1975年に飛ぶ。
機能停止になるはずの装置は機能停止にならなかった。
ロバートソンの助言でコインランドリーにてフィズル・ボマーと対峙。
彼が年を重ねた自分だと知ってフィズル・ボマーを射殺して爆破を阻止。

バーで2人が喋る以降のシーンでは、タイムスリップが頻発するので年月日が分からなくなります。そのため彼らの飛んだ先の年月日のみ書いています。こう見てもかなり複雑ですが…。

感想

タイトル『プリデスティネーション』は宿命とか運命という意味ですが、タイトル通り、どうしようもない運命に呑み込まれていく主人公の苦悩が印象的でした。全体的に見て、ストーリーの意外性は最高レベルだったと思います。多少引っかかる点はありますが、辻褄も合いますし、今までに見たことのなかった設定と展開でした。「監督・脚本・主演・助演全部俺」みたいな設定でしたね。冒頭の火傷の手術後のシーンで、あー、これがバーテンダーか。というのはすぐ分かるのですが、ジェーンが出会った男がジョンだと分かった時と、フィズル・ボマーがバーテンダーだと分かった時は仰天でした。どんでん返しが好きな身としては本当に面白かったです。

本作の大きな特徴として、タイムループに性転換の要素が加わることで、自分と自分の間に自分が産まれるという、保守派からは眉をひそめられそうな設定が成り立っています。ジョンがジェーンに一目惚れする(できる)伏線として、ジェーン時代に、自分の容姿が嫌いで自分の顔を鏡で見ることをやめたり、当時の写真を一枚も残していないことがあります。自分が女性だった時の顔を覚えていないため、思ったよりも綺麗だった二十歳前の自分にドキッとしちゃったということなんですね。いや、それでもさすがに過去の自分と×××は×××で×××かな…。僕はね…。

さて、本作を見て気になるのが、ロバートソンが何者なのかということと、バーテンダーはフィルズ・ボマーになっていくのかという点だと思います。僕なりの考察を書いておきます。

ロバートソンは航時局でもそれなりの地位にいる人物だと思われます。フィズル・ボマーが「俺らは操り人形だ。全部ロバートソンが仕組んだ」と言っていたりと謎が残るところではありますが、個人的には、このフィズル・ボマーの発言は真実だと思います。おそらくジェーン~フィズル・ボマーまでのこの無限ループを管理しているのがロバートソンです。この無限ループにも始まりはあったはずです。少なくとも誰かがジョンの人生にタイムトラベルをもって介入しないとこのループが生まれるはずはないからです。「卵が先か、鶏が先か」の問いに対する「雄鶏」はロバートソン(もしくは組織)という答えです。
また、「フィズル・ボマーが組織の成長に役立った。事実はそんなに単純ではない。」というセリフから、ロバートソンはバーテンダーがフィズル・ボマーになることまで知っているようにも見えます。極め付けは、退職するバーテンダーにフィズル・ボマーの新たな手掛かりを渡すところ。おそらく装置の不具合もロバートソンの仕業か組織の指示であり、バーテンダーがフィズル・ボマーを倒した後自身がフィズル・ボマーになっていくというループまでもロバートソンが管理していたのではないでしょうか。

するとその理由は何なのか。それはシンプルに仕事だから、だと思います。国家安全や犯罪防止のため、組織が生み出した時流の産物であるジョンを使って、100件もの犯罪を防ぎつつ、フィズル・ボマーと戦うことで組織を成長させていく。つまり、フィズル・ボマーの言った「操り人形」という訳です。そしてその操り人形の管理業務をしているのがロバートソンじゃないかと僕は思います。諸説ありますが。

そしてロバートソンの考察からも、僕はバーテンダーがフィズル・ボマーになると思っています。それは最後のセリフ「お前がひどく恋しい」からも分かります。そもそもバーテンダーとジョンは同一人物なので、ジョンと同じようにバーテンダーもジェーンのことを想っています。さらに言うなれば、バーテンダーはジョンさえも愛しています。かなりねじれた関係ではありますが、バーテンダー目線で言うと、過去の自分は父であり母であり子供であり恋人です。時空警察を辞めてタイムトラベルをしなくなれば、天涯孤独の自分が唯一血の繋がりを持つ過去の自分に会えなくなります。自分がフィズル・ボマーになれば自分を捕まえようとする過去の自分に会えるし、タイムトラベルで自分に会うこともできます。度重なるタイムトラベルで彼は精神を病み、本当の爆弾魔になっていくのかもしれませんが、コインランドリーでバーテンダーを見たフィズル・ボマーはとても嬉しそうでした。骨とう品店のアリスでは癒されなかったように、自分を本当に理解して慰めてくれるのは自分だけなのです。その欲求と自己愛に負けてバーテンダーはフィズル・ボマーになるに一票!

かなり緻密に計算された脚本なので違和感はないですが、重箱の隅を楊枝でほじくるように気になる点を挙げるとすれば以下の2点です。

●ジェーンはジョンと関係を持った時に、ジョンの性転換手術跡に気づかなかったのか。気付いていれば性転換手術後の自分の体を見た時に、恋した男が自分だったと分かりそうなものですが…。

●アメリカのバーテンダーってあんなに仕事しなくてもいいのか。業務中にお酒飲んで喋ってビリヤードしてさらに「休憩行ってくる」だと…。羨まs

映像の面で言うと、バーで2人が喋っている時に、背景にトイレの『LADIES(女性用)』が暗示的にかなり頻繁に移り込んでいたり、ジョンとバーテンダーが(おそらく)同じライターを使っていたり、かなり作り込まれているので何度観ても楽しい作品です。引退したバーテンダーがタイプライターで書き上げた原稿の著者名が『Jane(ジェーン)』から『John Doe(名無しの権兵衛)』に直されていたのも要注目。他にも気付けていないだけで隠された小ネタがまだまだありそうです。ちなみに1万人以上が死ぬ大規模爆破事件の切り抜きの『March-1975-New York』の『1』がアルファベット『アイ』の大文字になっていたり、バーテンダーの綴る『Novel』のエルが数字の『1』に見えるのは当時のタイプライターの仕様のようです。参考までに。

総合評価は95点(100点満点)です。超好きな作品です。

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